Topics 2002年6月1日〜10日    前へ    次へ


10日 賃上げよりも医療保険
7日 企業トップの離職手当て
5日 Portrait of the Washington Region(2)
4日 Portrait of the Washington Region
3日 Best Companies to Work for


10日 賃上げよりも医療保険 Source : Hershey Workers Approve Contract (Washington Post)
チョコレートで有名なHershey Foods Corp.で続いていたストライキが、漸く終了した。ストライキは、4月26日から開始されていたので、約6周間続いたことになる。

労使交渉の最大の課題は、医療保険料の従業員負担を巡るものであった。医療保険料の高騰が続く中、労働協約の改訂にあたり、経営側は医療保険料に関する従業員負担分を従来の6%から12%に倍増するという提案を行った。組合側はこれを拒否し、ストライキにより、2つの主力工場を閉鎖に追い込んだ。これに対して、先週、経営側は、臨時雇いにより工場を再開すると宣言して、組合側に譲歩を迫った。

典型的な団体交渉が行われていた訳だが、経営側には、投資家サイドからの圧力がかかっていた。投資家サイドは、このストライキが長引けば、9月の学校の新学期、ハロウィーン、クリスマスという、お菓子メーカーにとって需要が最も高まる時期に、充分な製品が供給できないのではないか、という懸念が広がっていた。実際、ストライキが懸念され始めてから、同社の株価は低落を続けてきた。



こうして、労使双方が圧力を掛け合った団体交渉の結論は、医療保険料の従業員負担分は据え置き、引き換えに、次の労働協約期間(4年間)の賃上げ率を抑制するというものとなった。Total Compensationという考え方に立つ経営側からすれば、医療保険料で抑制しようが、賃金で抑制しようが、同じ労働コストであり、そのコストの配分を名目上どこにどれだけ割り当てるか、という問題なので、全体のコストが抑制できるのであればどちらでもよいということがいえる。従業員側からすれば、Total Benefitを賃金でもらうか、医療benefitで受け取るか、ということになるが、医療の場合は、保険であり、収入として捉えることは難しい。今回の従業員の選択は、賃金を抑制してでも、医療保険の維持、負担の抑制を選択した、という意味を持つことになる。

アメリカの労働者が、企業提供の医療保険を重要と考えていることを示すよい事例だと思う。

7日 企業トップの離職手当て 
アメリカ企業幹部の離職手当てが、どんどん大きくなっている。上記Washington Postの記事で紹介されていた事例は、次の通り。

Bernard J. Ebbers (Chief Executive of WorldCom Inc.) L. Dennis Kozlowski (Chairman of Tyco International Ltd.) George Shaheen (Chief Executive of Andersen Consulting) Jack Welch (Chairman of General Electric Co.) Charles L. Watson (Chairman of Dynegy Corp.)

このような高騰に対し、いくつかの企業で、対策が講じられている。Bank of Americaの株主投票で、過半数が「離職手当ての総額が、基本報酬とボーナスの2倍を超える場合には、株主の承認を求める」に賛成した。また、Norfolk Southern Corp.では、株主の56%が、「すべての企業幹部の離職手当てについて株主の承認を求める」に賛成した。

他方、Qwestという電話会社で、企業トップの離職手当てに関する株主投票が行われた。議案は、いずれも株主から提案されたもので、次の2件。

@Qwest社幹部の離職手当て(Severance Package)について、株主の承認を求める件。
AQwest社幹部のボーナスの算定根拠に、企業年金基金の増加分を含めないこととする件。

幹部の報酬に一定の制約を加えようとするものだったが、投票の結果、@については27%、Aについては39%の賛成しか得られず、否決された。

Qwest社の株価は、2000年3月に$64だったものが、6月4日現在、$5.08まで下落している。また、会計処理についても連邦政府の査察を受けているらしい。このように株価が暴落し、業績見通しも不透明な状態でありながら、同社CEOは、2001年に、給与$1.2mil.、ボーナス$1.5mil.、1997以降繰り延べてきた後払い報酬分(ほとんどが株式)24.4mil.を受け取り、さらに、同社株74mil.相当を売却した。多くの株主が、株価の下落による損失を被っている中で、企業幹部がこれだけの巨額な報酬を手にしているのは、納得がいかないし、このうえ、離職手当てをふんだくられてはたまらないということだろう。特に、同社の株を持っている退職者達は、大変怒っており、株主総会でも相当発言した模様だ。

それでもなお、同社株主の過半数は、Severance Packageについて、株主の承認は必要ないとしている。現職トップの離職手当てに制限を加えることで恨みを晴らすことはできても、次のトップのなり手がいなくなることを恐れているのだと思う。それだけ、企業トップ、特に傾きかけた企業のCEOに就任できるだけの人材が限られているのだろう。


5日 Portrait of the Washington Region(2) 
Source : Fairfax County Loses Rank as No.1 Community (Washington Post)
昨日の続きである。今日は、ワシントン・エリアが、全米でどのくらいの位置付けなのかをランキングで示している。

○家庭所得の中位数
順位都市名家庭所得中位数1990年順位
1San Jose$74,3353
2Nassau-Suffolk, NY$68,3511
3Middlesex-Somerset-Hunterdon, NJ$66,7312
4San Francisco$63,29710
5Washington, DC$62,2164

○家庭所得の中位数(County別)

順位County名家庭所得中位数1990年順位
1Douglas, Colo.$82,92912
2Fairfax, VA$81,0501
3Loudoun, VA$80,64811
4Hunterdon, NJ$79,8885
5Los Alamos, NM$78,9934
8Falls Church, VA$74,92414
10Howard, MD$74,1676
13Montgomery, MD$71,5518

○修士以上の学位を有する人の割合
順位都市名割合1990年順位
1Washington, DC19%2
2Boston17%3
3Ann Arbor, Mich.16%1
4San Jose16%7
5San Francisco16%4

○外国生まれの割合
順位都市名割合1990年順位
1Miami51%1
2Jersey City39%3
3Los Angels36%2
4San Jose34%8
5New York City34%5
26Washington DC17%22


4日 Portrait of the Washington Region 
Source : Incomes hit $100,000 For 1 in 4 Householeds (Washington Post)
2000年センサスの地域別結果がまとまりつつある。上記記事は、ワシントン地域のセンサス結果をまとめたもので、最も印象的であるのが、所得の上昇である。ワシントン地域では、4つに1つの家庭が、10万ドルを超える年間所得を得ている。これはとても高い水準だと思う。特に、ヴァージニア、メリーランド両州のポトマック沿いの地域は、家庭の年間所得の中位数が、10万ドルを超えるという、とんでもなくリッチな地域となっている。

以下、上記記事に掲載された図表について、数値をまとめておく。

*特に注記のない限り2000年の数値。
**Washington Region: <<人 口>>

総人口
19904.66 million
20005.42 million

地域別人口
Northern Virginia1.96 million
Maryland Suburbs2.89 million
District572,059

外国生まれ(総人口に占める割合)
Washington RegionNorthern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
199011%13%10%10%
200016%20%14%13%

家庭で主に英語以外の言語を使用する5歳以上人口の割合
Washington RegionNorthern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
199014%16%12%13%
200020%25%17%17%

結婚(15歳以上人口に占める割合)
Northern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
Married58%55%30%
Never Married28%25%48%
Separated2%3%4%
Widowed4%5%8%
Divorced8%8%10%

障害者(人口割合)
AgeNorthern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
5-207%7%10%
21-6412%15%22%
65-34%37%43%

最終学歴(25歳以上人口に占める割合)
高卒学士修士以上
Northern Virginia40%28%21%
Maryland Suburbs50%21%17%
District39%18%21%


<<住 居>>

住宅ローン(家庭所得の30%以上を住宅ローン返済に充てている人口の割合)
Northern Virginia20%
Maryland Suburbs24%
District24%

50万ドル以上の資産価値のある住居の割合
Northern Virginia5%
Maryland Suburbs4%
District11%

家賃(家庭所得の30%以上を家賃に充てている人口の割合)
Northern Virginia31%
Maryland Suburbs34%
District35%

家賃(月1000ドル以上の家賃を支払っている家庭の割合)
Northern Virginia39%
Maryland Suburbs24%
District15%

<<通 勤>>

一家庭の車の所有台数(家庭全体に占める割合)
0台1台2台3台
Northern Virginia5%32%43%20%
Maryland Suburbs7%32%41%20%
District37%44%15%4%

通勤手段(16歳以上の労働者人口に占める割合)
Northern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
自家用車71%73%38%
自家用車(相乗り)14%13%11%
公共交通機関8%8%33%
徒歩2%2%12%
在宅勤務4%4%4%
その他1%1%2%

通勤時間
Washington RegionNorthern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
32.2分31.6分33.0分29.7分

<<所 得>>

年間所得の階層(1989→1999)(家庭総数に占める割合の変化(%ポイント))
(Washington Region、インフレ調整済)
$10,000以下0.3% ↑
$10,000-$14,9990.0%
$15,000-$24,9990.1% ↑
$25,000-$34,9990.6% ↓
$35,000-$49,9991.2% ↓
$50,000-$74,9992.1% ↓
$75,000-$99,9990.7% ↓
$100,000-$149,9991.3% ↑
$150,000-$199,9991.3% ↑
$200,000以上1.6% ↑

年間家庭所得100,000ドル以上の家庭の割合
Washington RegionNorthern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
199022%26%21%14%
200026%31%24%16%

年間家庭所得25,000ドル以下の家庭の割合
Washington RegionNorthern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
15%10%18%30%

貧困レベル(Topics 「5月22日 Living Wage Law」参照)以下で生活する18歳以上人口の割合
Washington RegionNorthern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
19906%4%5%17%
20007%5%6%20%

貧困レベル以下で生活する18歳未満人口の割合
Washington RegionNorthern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
19907%4%6%25%
20008%6%7%31%

職業(16歳以上市民に占める割合)
Northern VirginiaMaryland SuburbsDistrict
Professional, scientific, managemant, administrative20%15%19%
Education, health and social services15%19%18%
Public administration13%12%15%
Retail trade9%10%-
Finance, insurance, real estate and rental and leasing7%7%7%
Entertainment, food, accommodation services--9%

上の図表からいろいろなことがわかって面白い。

3日 Best Companies to Work for Source : Best Companies to Work for (Fortune)
これは、おなじみのFortune 500の別バージョンだ。働く人にとって働きやすい、働きがいのある職場のランキングである。

少し異なるのは、このランキングは、ランク付けをして欲しいと応募した企業について、ランキングを行うため、必ずしも全米企業の中から選別されているわけではないということである。

応募資格は、最低7年間、雇用規模が500人以上(来年から1000人になるとのこと)であったことである。今年の応募企業数は300社弱。

選考過程は、ランキング希望企業の応募 → Fortuneで雇用関係データの収集 → 応募企業の従業員に対するランダム調査 → 最終選考 → ランキング決定となる。

今年は、景気後退期の中でのランキングとなったため、lay off回避に努めている、またはlay offする場合にも従業員への配慮を充分に行っていることに、ウェイトが置かれたようだ。その結果、ベスト100社のうち、80社はlay offを行っておらず、そのうち47社は、社の規則としてlay offをやらないことになっているそうだ。また、細かなフリンジベネフィット(例えば結婚記念日お祝い金など)も維持している企業が多いという。こういうことなら、日本企業でやっていることと同じなんだけどな。

結局、経営には人的資源が大事、ということなのだろう。

整理のために、ベスト10の企業の実際の評価ポイントを整理しておくと次のようになる。

順位 企業名(業種) Fortune500 従業員数 主な評価ポイント 転職率
1 Edward Jones(証券) - 27,092
Lay offがない。
職場に倫理観がある。
97%の従業員が経営陣が正直だと感じている。
22%
2 Container Store(収容家具販売) - 1,987
給与の高さ
充実したBenefit(401(k)で100%マッチング)
従業員を尊重
24%
3 SAS Institute(ソフトウェア) - 8,309
保育施設・健康施設が充実
健康診断あり
6%
4 TDIndustries(空調施設施工) - 1,368
病気休暇が充実
勤続年数により多数の有給休暇
21%
5 Synovus Financial Corp.(金融) 718位 11,022
キャリアプランがある
勤務評価が頻繁
114年間lay offなし
12%
6 Xilinx(チップメーカー) - 2,649
Lay offをしない
7%
7 Plante & Moran(会計事務所) - 1,240
4週間のバケーション
20%
8 Qualcomm(通信) 500 6,314
新たな職制作りによりlay offを抑制
地域貢献に積極的
5%
9 Alston & Bird(法律事務所) - 1,338
通常のボーナスに加え、目標達成度に応じたボーナス
12%
10 Baptist Health Care(病院) - 4,068
従業員主導の経営
14%


こうしてみると、比較的小規模の企業が自社の宣伝のために応募していると見えなくもない。それにしても、ちょっと気になるのが転職率だ。そんなにいい職場から、毎年20%もの従業員が辞めていくというのはどういうことなのか。もっとよい職場が見つかるので出て行くのだろうか。ここら辺り、もう少し取材してもらいたいな。